知らないことだらけ

ゲームとゲーム音楽と雑記

「ゲーム音楽」のこれからの形を考える

(この記事は2016/12/10に開催されたゲーム音楽探究ゼミ「トライノートゼミ」の第60+18回内で発表された内容に加筆修正したものです、ご了承ください。当日発表されたスライドはこちら


(記事目次)

  • 2016年おすすめサントラ
  • そもそもゲーム音楽」の定義って?
  • おすすめサントラから見えてくる「新しい楽しみ方」
  • 「新しい楽しみ方」の可能性とは
  • ゲーム音楽」の再定義とその意義


(2016年おすすめサントラ)

ゲーム音楽」の定義について考える前に、まずは2016年のおすすめサントラを紹介しようと思います。
これらのサントラを集めて聴いているうちに、「ゲーム音楽」の定義について考えるようになりました。

1.「幻影異聞録♯FEボーカルコレクション」
2015/12/26に発売されたWiiUソフト「幻影異聞録♯FE」のゲーム内で使用されているボーカル曲を集めたサウンドトラックです。
♯FEは現代日本の芸能界が舞台となってます。主人公をはじめとするキャラクターたちが芸能活動として、物語の中で披露する楽曲全18曲が収録されています。
#幻影異聞録はいいぞ


SPLATOON LIVE IN MAKUHARI -シオカライブ-

SPLATOON LIVE IN MAKUHARI -シオカライブ-

2.「SPLATOON LIVE IN MAKUHARI」
WiiUソフト「Splatoon」に登場する架空のアイドル「シオカラーズ」の楽曲を、演奏したライブの音源を収録した、ライブアルバムです。
「闘会議2016」と「ニコニコ超会議2016」のステージで披露されたライブ音源と未発表曲の音源など全40曲が収録されています。
なお、シオカライブはフランスでの「ジャパンエキスポ2016」でも開催されました、



3.「The Sound of Kirby Cafe」
東京・大阪・愛知で開催された期間限定のコンセプトカフェ「カービィカフェ」で流された楽曲を収録したアルバムです。
初代「星のカービィ」から最新作「ロボボプラネット」までの楽曲の一部をアレンジしたものが、全12曲収録されてます。
ゆったりしたアレンジやベースのきいたジャジーなアレンジが多くとても楽しめるアルバムです。


はじまりの風-CROSSROAD-

はじまりの風-CROSSROAD-

4.「はじまりの風―CROSSROAD―」
尺八奏者の神永大輔さんを中心にケルトミュージックシーンなどで活躍する方が集まった「風とキャラバン」が、作曲家の「なるけみちこ」氏が手掛けたゲーム音楽を演奏・収録したアルバムです。2016/10/1にはよみうりランド内のホールでライブも開催されました。なるけみちこ氏書下ろしを含めた全10曲が収録されています。

以上、2016年に出会ったおすすめアルバムでした。


そもそもゲーム音楽」の定義って?)

さて、今回は「ゲーム音楽」の定義について考えようということでした。ですが、今挙げた4枚のアルバムはもしかしたら「ゲーム音楽と関係ないアルバムなのでは?」と思った方もいるでしょう。それはつまり「これまで私たちが考えていたゲーム音楽サントラの形」が既に頭の中に出来上がっているため、そのような違和感があるでしょう。まずはその「これまで考えられてきたゲーム音楽サントラの形」について考えてみます。

今「ゲーム音楽サントラ」と表現したことからわかるように、一般的には「ゲーム内で使われたサウンドを集めたサウンドトラック」と捉えられているのではないでしょうか。そしてそのサントラにはゲーム中に使われた音源がそのまま収録されている、ものだと思います。
またゲーム中に流れてくる音楽は、そのゲームハードの性能からくる制約や、(特にRPGなどに特徴的なのですが)そのゲームの場面を盛り上げるための「演出」として用いられる側面があるため、インスト曲であることがほとんどではないでしょうか。(のちにゲームハードの性能が向上するにしたがってゲーム内でもボーカル曲が多く使われるようになりましたが、ここでは割愛させていただきます)

このように、「ゲーム音楽サントラ」とは基本的には「ゲームで使われた曲の音源を集めた楽曲集」といえるのではないでしょうか。
そしてここでの「ゲーム音楽」の定義は、「ゲーム内で使われたインスト曲」だと思います。


(おすすめサントラから見えてくる「新しい楽しみ方」)

とりあえず「ゲーム音楽」の定義をしました。しかし、先ほど紹介した2016年おすすめアルバムはその定義と合致しないものだったと思います。それでも、私はこれらのアルバムを「ゲーム音楽」と紹介させて頂きたいのです。ここではそれぞれのアルバムの特徴を詳しく紹介しながら、ゲーム音楽の新しい形を考えてゆきます。


まずは「幻影異聞録♯FEボーカルコレクション」です。WiiUソフト「幻影異聞録♯FE」はRPGですが、ゲーム内では当然インスト曲もゲーム内にあります。しかしインスト曲を集めたサントラは発売されていないため、♯FEのゲーム音楽アルバムはこのアルバムのみです。先に述べた通り、ここに収められているのは、フォルトナエンタテイメントという芸能事務所に所属する芸能人(というかアイドル?)たちが物語の中で披露する歌です。ゲーム内での演出も相まってどれ素敵で多種多様なポピュラーソングです。また、ここで収録されている曲の一部は2016/5/15に開催された「幻影異聞録♯FE PREMIUM LIVE エンタキングダム」というライブイベントで声優さんたちによって実際にライブ曲として披露されました。(エンタキングダムの概要についてはこちらの記事を参照してください)
ゲーム内の芸能人が歌ったポピュラーソングが集められている、そしてそれらの曲が実際にライブとして演奏されている、という点は現実に存在するアイドル活動と同じといえます。つまりこのアルバムは、他のポピュラーソングのアルバムと同じ楽しみ方ができるものではないでしょうか。

次は「SPLATOON LIVE IN MAKUHARI」です。WiiUソフト「Splatoon」のゲームサントラは既に発表されていました。Splatoon ORIGINAL SOUNDTRACK -Splatune-
Splatoon ORIGINAL SOUNDTRACK -Splatune-」です。このアルバムに収録されているのは、ゲーム内で使われた楽曲を「ライブ演奏したもの」です。実際に演奏された音やライブに参加した観客の歓声もそのまま収録されており、現実のミュージシャンがリリースしている「ライブアルバム」と全く同じ構成になってます。(私はファーストライブを観に行きましたが、その時の熱狂は現実のミュージシャンの時と同じかそれ以上の熱気でした)現実のミュージシャンと同じように、ゲーム内の架空アイドルがライブを行い、それに人々が熱狂する、というのはかなり新しい光景だったと思います。この点において、スプラトゥーンの楽曲はこれまでの「ゲーム音楽」という枠を大きく乗り越えてさらに広い層にも楽しめる音楽性をもっているといえるのではないでしょうか。またこのアルバムには2つのライブ音源が収録されているのですが、それぞれのライブの演奏の違いや観客の盛り上がりも楽しめます。これもこれまでのゲーム音楽サントラではなかった楽しみ方ではないでしょうか。

続きまして「The Sound of Kirby Cafe」です。ここで収録されている楽曲は、カービィカフェで流されるためだけにアレンジされたものです。カフェで流される音楽になるため、原曲とはガラッと雰囲気を変えたものも少なくありません。おそらくこの先発表されるカービィシリーズのゲームにもまず収録されることのない楽曲たちは、既にゲームから離れ、ゲームサントラの枠に収まらないものになってますが、とはいえ元をたどればゲームから生まれた楽曲です。むしろゲーム音楽をアレンジすることによって、カフェで用いられる環境音楽にもなれるということの証左ではないでしょうか。



最後は「はじまりの風―CROSSROAD―」です。風とキャラバンというバンドがゲーム音楽を演奏したものですが、ここで集められているのは、なるけみちこ氏というゲーム音楽の作曲を手掛けた方に注目して集めたものです。つまりこのアルバムで前面に押し出されているものはゲームではなくなるけみちこ氏というゲーム音楽作曲家です。ゲームという娯楽の楽しみ方とはまた違った楽しみ方を、こうしてプロのミュージシャンたちが提供してくれたものだといえます。



このように、今回紹介したアルバムはいずれもこれまでの「ゲーム音楽の定義」から外れた、さらなる広がりをもったものだと思います。

幻影異聞録♯FEボーカルコレクション」は、「インスト曲がメイン」というゲームサントラの枠を飛び越えました。その結果、他のアイドルたちがリリースしているようなポピュラーソングアルバムとしての魅力が浮き上がりました。

SPLATOON LIVE IN MAKUHARI」は、「ゲーム内の音源を収録したもの」というゲームサントラの枠を飛び越えてライブ演奏を収録しました。これもまた世に出ているミュージシャンたちのライブアルバムと同じ楽しみをもちました。

「The Sound of Kirby Cafe」もまた、「ゲーム内の音源を収録したもの」という枠を飛び越えました。さらに言うならば、これらはカービィカフェというゲームと離れた新しいイベントのために新しくアレンジされた楽曲でした。そしてその楽曲は、カフェで流れる環境音楽として素晴らしい魅力をもってました。

「はじまりの風―CROSSROAD―」は、「ゲームの音源を収録したもの」ではなくて「ゲーム音楽作曲家」に注目したアルバムでした。これもまた新しい視点だと思います。


(「新しい楽しみ方」の可能性とは)

先の項で「ゲーム音楽の定義から外れたさらなる広がり」と表現しました。今回紹介したアルバムの楽しみ方を紹介することで、私はゲーム音楽をより楽しくより多くの人と楽しみあえる「新しい楽しみ方」が見つかったのではと思い、この文章を書いています。ではその「新しい楽しみ方」とはどのようなものなのか、これまで考えられてきたゲーム音楽の楽しみ方と比較しながら考えていこうと思います。

右図は、「ゲームプレイ中に体験できる様々な要素」とその関係性を図式化したものです(トライノートでの発表の際に作成した資料の一部です)。ゲームをプレイしている時には、このように映像やサウンドエフェクト、音楽、コントローラーを動かして感じる「ボタンアクション」や「コントローラーを通じた体感」(コントローラーの振動とかWiiリモコンなどがこれに該当します)などの操作性、特にRPGなどではそれまでのゲーム内で描かれた物語、そしてそれらをまとめる演出、これらが混然一体となりプレイヤーに提示されます。それぞれの構成要素は独立したものではなく、お互いが切り離せないものとしてゲーム内に組み込まれています。
ゲーム音楽について語るとき、しばしば「音楽を聴くとその音楽が流れた場面や物語が思い出される」「サントラで曲を聴いているとゲーム内のSEなどが空耳で聞こえてくる」という声がでてきます。この言葉こそが、先ほどの主張を裏付けているものであり、そしてまたそれこそが「ゲーム音楽ならではの楽しみ方」だと主張されてきました。「ゲームで使われている音楽は、ゲーム内での演出などを前提として作られたものなので、ゲームプレイ中に聴くことが最高の聴き方である」ということでしょうか。私はこの意見を否定するわけではありません、しかしそれだけではあまりに楽しみ方が限定されすぎてはないか、と思うのです。どんなに素敵な曲だとしても、ゲームをプレイする環境を整え、あるポイントまでゲームを進めないと聴くことができない、というものは時間とお金と運が必要な贅沢品ではないだろうか、と思うのです。本当にそれだけでいいのか、と思ったのです。この楽しみ方は「旅行」と似ていると思いました。その場所へゆき、その場所でしか体験できない最高の景色や出会いなどがある、という点で。確かにそれは最高の経験であり、忘れられないものになると思います。けれどもこうしてゲームが多くの人に楽しまれるようになり、多くのゲームが作られるようになり、またそれに伴い色んなゲーム音楽も作られるようになりました。そういった多くの素敵な曲が存在している中で、もっと娯楽として楽しみ方の幅が広くならないだろうか、という思いも同時に強くありました。

そこで考えたのが、「ゲーム音楽を、ゲームの構成要素として捉えるのではなく、音楽そのものを楽しめないか」です。

右図はゲーム音楽を、他のポピュラーミュージックのように、ゲーム音楽単体で楽しもうとした場合、どのような楽しみ方が広がるかを図式化したものです。「ゲーム音楽は、ゲームプレイ中だけでしか楽しめない」という縛りをなくすことによってあらゆる場面でゲーム音楽を聴くことができるのではないでしょうか。
ゲームの外の場面だと、例えば演奏会という新しい出会い方もできるし、テレビやラジオなどから流れてくるなど日常的な場面で出会うことができます。
また「ゲーム音楽は、ゲームで使われた音源である」という枠も越えてみましょう。ゲーム以外のアレンジを楽しむ、または演奏会でそれぞれの人たちの演奏や編曲を楽しむ、カフェなどで使われるような音楽としてアレンジされたものを楽しむことができる、などこちらは出会う場面が広がるだけでなく、音楽としての楽しみ方も広がるのではないでしょうか。これは他にも、「ゲーム音楽をまとめるときは、そのゲームタイトルで整理する」という枠を超えた「ゲーム音楽作曲家に注目して、その作曲家の作品を比較して楽しむ」という楽しむことにも繋がっていると思います。

このようにゲーム音楽を、音楽単体として楽しむことの利点は「その音楽が様々な形に生まれ変わることで、新しいその音楽の魅力を発見することができる」という点と「その音楽に出会うチャンスを広げることによって、より多くの場面で楽しむことができる」ということがあると思います。さらに言うと「ゲームを離れたことで、より多くの人の耳に触れる機会が広がる」という点が挙げられます。任天堂前社長の岩田聡氏はしばしば「ゲーム人口の拡大」の重要性を口にしていました。ゲームという文化に触れる人が増えてゆき、そして若い世代から高齢世代まで幅広く楽しめる娯楽であることが、この先ゲームをより良く楽しむためには大切だ、という趣旨の発言でした。ゲーム音楽もまた同じである、と私は強く思っています。ゲーム音楽を嗜み、楽しみ、活動する人の数が多いほど、ゲーム音楽はより文化として醸成してゆくものだと思ってます。

また、ゲーム音楽がより多くの場面で楽しまれることで期待できることに、「音楽に興味を持った人が、ゲーム内での体験をしたくてゲームをプレイする」ということが挙げられるのではないでしょうか。先に述べた通り、「ゲームをプレイして、ゲーム内演出としてゲーム音楽に出会う」という体験はゲームプレイでしかできないものです。自分がどこかで聴いた素敵な曲がゲームの中でどのように使われているのか、というのはゲームへの入り口になるのではないでしょうか。

そうでなくとも、実際これまでに作られたゲーム音楽を振り返ってみると、様々なジャンルの音楽が混在したものではないでしょうか。ポップス、クラシック、ジャズ、ロック、はたまたケルトミュージックやもちろん和風のものまで、様々なジャンルの音楽をゲームに合わせて落とし込み、作られてきた音楽界隈なのだと思います。ゲームを楽しむ習慣がないけど、それらの音楽が好きな人には響く曲が多いと思いますし、そういった人たちがまた興味をもってくれることがあれば、なにより素敵なことだと思います。


(「ゲーム音楽」の再定義とその意義)

長々と述べてきましたが、改めて「ゲーム音楽の定義」を考えたいと思います。私が提案したい、ゲーム音楽の再定義とは「ゲームという娯楽の中で使われた楽曲ならば、それらはすべてゲーム音楽と呼んで差し支えないものである」です。つまり、ゲームプレイしないと聴けない音楽も、これまでのゲームサントラに収録されている楽曲も、アレンジアルバムに収録されている楽曲も、コンサートやライブなどで演奏された楽曲も、カフェアレンジなどをされた楽曲も、それらがみなすべて「ゲーム音楽」と呼ばれてよいものだと思います。ゲームの中から出られなかった素敵な楽曲たちを、ゲームという大きな箱の封を開いて、もっと広い世界に羽ばたけるようにした方が、多くの人たちが楽しむことができるのではないかと思います。ゲームはまだ「サブカルチャー」と称されるような立ち位置にいると思いますし、ましてやそこに付帯しているゲーム音楽なんて世間的には認知度も低く、ニッチなジャンルの娯楽だと思います。けれども、この素敵なゲーム音楽がもっと多くの人に、気軽に、いつまでも、楽しめるように、もっともっと裾野が広がって文化として私たちの日常に何気なく存在するためには、こういった再定義が必要だと強く思いました。

そしてこれらの音楽がもっと楽しまるためには、権利関係などの整備が必要だと思うのですが、それはまた別の機会に。
長文失礼しました。ゲームと、ゲーム音楽がもっと盛り上がってゆきますように。