考察:受け入れて、生まれ変わる。「幻影異聞録♯FE Encore」キャラクター考察 Kiria編
(この記事は「幻影異聞録♯FE Encre」(以下「♯ FE」と表記)の登場人物、Kiriaに関する考察記事です。「幻影異聞録♯FE Encore」のネタバレ及びKiriaのサブイベント内容が含まれます。あらかじめご了承ください。)
「♯FE」では物語を通して各フォルトナのメンバーが様々に成長してゆきます。その成長の仕方には大まかに二通りあり、自らの内面が変化してゆくものと、自らの外にある困難に対して立ち向かって越えてゆくものです。
今回はKiriaがどのように変わっていったのかを考えてゆきます。
- 歌手の歌は言葉
- Kiriaを苦しめていたもの
- 失くしたものを見つけてくれた人
- 向き合って受け入れる
- 受け入れてそしてその先へ
歌手の歌は言葉
Kiria自身が語っているように、「幻影異聞録♯FE Encore」の世界で歌われている楽曲は、「歌っている歌手の思い」が歌われているものです。これを踏まえ、Kiriaの歌と物語を比べながら、彼女の心情の変化をみてゆきましょう。
ゲーム開始当初のKiriaは既にトップアーティストとしてシーンをけん引する存在になっていました。傍から見れば成功をその手につかんだ人として幸せの絶頂にいるように思えるかもしれません。しかし、最新曲の中で彼女はとても悶え苦しんでいました。
「壊したい」「消えてしまいたい」「生まれ変わりたい」など破滅的な言葉が多く使われています。 そしてその苦しみ悶えている彼女は「大事そうに抱えた強がり」「大事そうに抱えた私」によって苦しめられていると歌っています。彼女が苦しんでいる「私」とはなんなのか、そしてなぜそれに苦しんでいるのか、さらにそれがどのように変わってゆくのかを、サブイベント等を通じて考えてゆきます。
Kiriaを苦しめていたもの
トップアーティストのKiriaの世間でのイメージは「クール」でした。プロフィールにも「好きなもの:ライブ・ソリッドなもの」と書かれているように、朗らかな笑顔よりも、ビシッと決めたクールな表情で常に冷静な姿が浮かびます。
しかし黒野霧亜は生まれた時からそのような少女ではありませんでした。
元々フリルのような「かわいいもの」が好きだった彼女は、身体の成長と共に顔つきや身丈が変化してゆき、周りから「かわいいものが似合わない」と評されてしまいました。自分の好きなものが、自分に似合わないものだと言われてしまい、自分の好きなものを思いのままに楽しむことが出来なくなってしまいますは彼女自身の気持ちや心の声に耳を傾けたのではなく、常に他人の目を気にし続けて「他人から望まれる姿を振舞い続けた」結果がクールなイメージのKiriaを生み出すことになってしまいました。
余談になりますが、Kiriaの普段の髪型大きくまとめ上げたロングヘアーを三つ編みにして蝶結びのリボンが巻いてあります。これは彼女の「かわいいものが好き」という気持ちの表れだと思います。
その時に受けた心の傷は深く、常に孤独におびえていたのだろうと思います。樹くんからの言葉も、最初の頃はそのまま素直に受け止めるのではなく、本当にそれでいいのかどうか恐る恐る尋ねていました。「Reincarnation」で歌われていた頃のKiriaは、怯えるように孤独に生きていることに限界を感じ、他の誰かに助けを叫んでいたのでしょう。皮肉にも、その歌に込められた想いはクールでカッコいいイメージのKiriaが好きなファンには伝わることなく、Kiriaは一層孤独を深めていました。
失くしたものを見つけてくれた人
物語でKiriaが加入して最初に始まるサブイベントは、「失くしてしまったマスコットを探してほしい」という依頼でした。実はこのマスコット、Kiriaがずっと大切にしていたお気に入りのかわいいマスコットです。
諸事情でボロボロになってしまったマスコットを、樹くんは自分の手で直してkiriaに届けます。
このマスコット、実はKiriaにとってとても大切なものでした。似合わないものだと言われて捨てたはずの、かわいいものを好きな心をそのまま表しているもので、「捨てようとしても捨てられない大切なもの」だと話しています。言うならばこのマスコットは「かわいいものが好き」な自分自身と言えるでしょう。クールなKiriaとして生きてゆく為には必要ないものなのに、それでも捨てたり消したりすることができないものでした。
つまり樹くんがしたことは、単にマスコットを探して修理したというだけでなく、Kiriaが大切にしてきた「かわいいものが好きな自分」をその手で大切に扱って直してくれたと言えます。
樹くんにマスコットを直してもらったKiriaは「不思議な気持ちが沸き上がって」きてその想いを新曲にのせてゆきます。その曲が「迷路」です。
「Reincarnation」で歌われていた孤独な叫びとは異なり、「迷路」では他者の存在に気付いた変化が歌われています。
「もしかしたらずっと誰かに認めてほしかっただけなのかな?」というのは、自身の中にある「可愛いものが好き」という自分を認めてほしかったのだと気づいたこと。「ありのままでいればいつも/あるべき私がここにいると/信じてまた新しい夢を/精一杯描き出せばいい」とこれまで歩んできた生き方と異なった歩み方をしてみようとする決意が歌われています。
また同時にKiriaは「そう気づき始めたよ私/誰かの優しさに触れた時に確かに」と謳っています。これは樹くんの行動によって自身の心が変化していると自覚しているのでしょう。
「可愛いものが好き」という自身の想いに再び気づき、それを受けとめようとする自身の変化に対して、Kiriaはとても戸惑いを感じています。そんなKiriaに対して樹くんは真正面から向き合い、ありのままのKiriaを受け入れていきます。そんな樹くんの存在はKiriaにとってとても大切だったと思います。
向き合って受け入れる
自身の変化に戸惑う中で、Kiriaは「アブソリュートカワイイ!」という深夜番組で黒猫の着ぐるみを着る仕事に出会います。これまで「可愛いものが好き」という自分を抑えつけて過ごしてきたKiriaは、その反動で可愛いものに出会ってしまうと感情が暴走してしまうという事態になってしまいました。
そこでKiriaはそんな自分を乗り越える為に「自分の中にある『可愛いものが好き』という気持ちを殺す」という決意をして、ダンジョン内で可愛いミラージュを多く倒そうとします。
当然この試みはうまくいきません。その時、樹くんとKiriaの相棒であるサーリャがそれぞれに「想いを殺すことは出来ない、受け入れるのがいい」とアドバイスをしてくれます。
紆余曲折ありましたが、Kiriaはそれまでの自分の歩み方から変えて「可愛いものが好きという自分の想いを受け入れて生きてゆく」という選択をします。
自身が変化してゆくことに、戸惑いながらも、自分の想いを押しつぶすことなく大切にしてゆくこと。「アブソリュートカワイイ!」との出会いによってKiriaは大きく変化してゆくことになります。
受け入れてそしてその先へ
「自分の想いを受け入れる」という選択をしたKiriaは、さらに自身の音楽も変えてゆきます。つばさちゃんとのデュオ企画では「かわいい」を自身の音楽に取り入れる為に、つばさちゃんに頭を下げてかわいいパフォーマンスを学ぶ決意をします。
これまでは他者からの目線をとても気にしていたKiriaが自分の想いを形にするために、他人と接して自分を変えようとしています。これは「アブソリュートカワイイ!」での自身の変化をポジティブに捉えることが出来た結果でしょう。
これまで歩んできた自身のクールな音楽性は残しつつ、自分の好きな「可愛い」に対してもしっかりと向き合い、Kiriaは「クール×カワイイ」という新しいスタイルを生み出して、アーティストとしてさらに飛躍することになりました。
劇中でサーリャも述べていますが、音楽やファッションを通して何かを表現するということは、自身の生き方を選び続けてゆく戦いと言えます。これまで自分が何が好きで、どのように表現し、どのように生きてゆくのかをずっと苦しみ続けてきたKiriaにとって、自分の思うままに、そして自分が知らなかったものまで表現できるようになれたことは、とても素晴らしい変化だと思います。
そして何よりも大きな変化は、Kiriaが満開の笑顔を見せるようになったことです。これまでの苦悩を吹き飛ばし、そして自身の好きなものに向き合っていける喜びがあふれている笑顔は、見ているこちらもとても幸せになります。
自分の想いを大切にすること、そしてその想いを表現してゆくために戦ってゆくこと。Kiriaの変化からとても大切なことを教えられたと感じました。