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レポ: 光田康典講演会「光田流作曲方法」とは

2018/8/26にNHKカルチャーセンター梅田教室で開催された「光田康典さんが語る 音楽への思いと光田流作曲方法」を受講した。コンサートやCDリリースイベントなどで何度か光田氏をお見かけする機会はあったが、こうした光田氏自身の詳しいお話を聞く機会は初めて。

講演時間はおよそ一時間半ほど。冒頭に簡単な光田氏の紹介と講演終了後に質疑応答及び物販とサイン会まで行われたがここでは割愛させて頂く。予定時間ギリギリまで質疑に応え、サイン会でも笑顔で対応された氏の人柄がとても好印象だった。

 

(目次)

・「音楽の三要素」と「光田流の音楽作りに必要な三要素」

・モチーフの大切さ

・楽曲を映像に当てはめる場合

・「絵先」の場合

 

・「音楽の三要素」と「光田流の音楽作りに必要な三要素」

 「良い音楽とはどのようなものか?」という問いから講義はスタート。ここでは前衛音楽や環境音楽ではなく、光田氏が取り組む劇伴やゲーム音楽などについて考えることに。氏はまず「音楽の三要素」として、「メロディ(旋律)」「ハーモニー(和音)」「リズム(拍子、いわゆる符割も含めて)」を挙げて、これらそれぞれを良くしてゆくことが大切だと述べた。

そう述べた上で「この三要素がしっかりしていれば良い音楽になるのか?僕はそうは思いません」と切り出す。ここから光田氏が曲制作時に大切にしている「光田流の三要素」が紹介された。

それは、「フォーカス(焦点)」「カラー(色彩)」「エコノミー(節減)」とのこと。

  • フォーカス:楽曲の中で聴いてもらいたいところを明確にすること。構成を入れ替えたり、フォーカスすべき箇所以外の音をワザとぼかしてみるなど。
  • カラー:音色(おんしょく)を揃える、曲調(キー)をしっかり意識して作るなど。奏法や使用する楽器なども見直す。
  • エコノミー:必要最小限の楽器、フレーズを選ぶことを意識する。この節減がかなり重要と光田氏は語る。

これらの三要素は互いに独立したものではなく、混ざり合い繋がりあっているものだとも。特にエコノミーについては熱く語っていた、自身がかつて手がけたゲームハードでの作曲について、「以前は容量の関係でどうしても節減が求められていたので、必然とそういう曲作りになった」とも。 

またフォーカスについては自身が手掛けた「ラクガキ王国2」の曲を例に出してアーティキュレーション(スタッカートやクレシェンドなど奏法によって強弱・表情をつくり、旋律等を分けるもの)の変化で曲がガラッと変わることを述べた。

・モチーフの大切さ

続いて話題は劇伴音楽などの「作品全体を彩る音楽」に関わるものへ。ここで光田氏が話していたのは「モチーフを用いて楽曲を印象づけたり、統一感をだす」ということ。講義では自身の手掛けたNHKドラマ「朗読屋」において同じモチーフを使った楽曲をそれぞれ紹介した。

同じモチーフを用いながらも、その曲が流れる場面やその場面での人物の心象、または物語の流れなどに応じて、テンポや音色を変え、キャラクターによって使う楽器もイメージし、曲毎に色合いを変えながら統一感を保つ、という光田氏のこだわりが見えた。

・楽曲を映像に当てはめる場合

劇伴音楽の話からの流れで、ゲームのイベントシーンなどに使用する楽曲について。

光田氏はここでも強いこだわりを見せた。楽曲をイベントシーンに当てる際の注意点として「作品全体の流れを把握すること」「(カットシーン単体で考えるのではなく)シーンの前後関係を十分に考えること」「台詞、動き、カメラワークなどにも注意する」などを挙げた。 

ここでは「ゼノサーガ」の実際のムービーシーンを取り上げて、ムービーシーンにおける楽曲の当て方の「悪い例」「良い例」をそれぞれ実際に披露して、それぞれの理由を話していた。実例を挙げて頂けると非常にわかりやすい。ここでも先の講義で挙げた「光田流三要素」が光る。雰囲気とかカット割りで判断するのではなく、どこにフォーカスするのか、どのようなシーンなのかをしっかりと理解したうえで曲を合わせる。時には数フレーム単位で調整するという光田氏のこだわりがここでも感じられた。

(筆者が音をいれるタイミングが悉く悪い例にドンピシャだったのはここだけの話)

 

・「絵先」の場合

先程とは逆に、(既にある程度作られた)映像などに合わせて曲を作る場合の話へ。例えばプロモーションビデオやCMなどがこのようなケースが多いとのこと。素人からすれば、何もないところから楽曲を作るよりこちらの方が作りやすいのでは、と考えたのだが、むしろこちらの方が製作者の力量が問われるとのこと。

イナズマイレブンのPVを制作した時の工程を取り上げて、曲を作り上げてゆく様子を説明する光田氏。脚本、絵コンテ、Vコンテなどの段階を順に追いながら、その時するべき作業などを解説してゆく。ここでも光田氏が大切にしていたのは、キーとなる台詞や物語など「どこに焦点をあてるか」という点だと感じた。最後に完成されたPVを見た時は思わず鳥肌がたった。作曲家って、すごい。

 

・最後に

 多角的な視点から、光田氏の作曲方法を丁寧に、実例を挙げてわかりやすく話してくださったので90分があっという間だった。以前ゼノブレイド2の限定版サントラについてきたブックレット内でモチーフの大切さを語り、 ゼノギアスコンサートのパンフレットでは各演奏曲について物語とキャラクターをとても大切にして編曲したと語った光田氏だったが、今回の講演会ではそれらの仕事を支えるしっかりとした理論と信念をとてもわかりやすくお話頂いた形となった。

また、ケルトミュージックをはじめ多様なジャンルの音楽や楽器に挑戦し、それらを作品にしてゆくところには光田氏の勉強熱心な姿が、さらには仕事で関わる作品の物語やキャラクターの心情、シーン毎の繋がりやはたまた作品をまたいでシリーズを通してモチーフを使い続けてゆく姿勢に光田氏の真摯でこだわりの強い作家性がそれぞれ感じられた。そんな光田氏だからこそ、今回このような講演会で「後学の為に」とたくさん話してくださったのだと思う。これほどわかりやすく、為になる講演会はなかった。光田氏のこれからのご活躍とご健康とご多幸を心からお祈り申し上げる。

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スケジュール詰め詰めだったので残っている写真がジャッジくんとコダック氏のたこ焼き写真だけだが、ご了承頂きたい。口の中で蕩けてソースがじんわりと楽しめる本当に美味しいたこ焼きだった。

 

 最後に、今回この講演会の記事を書くにあたってプロキオン・スタジオのアカウントに問い合わせをしたのだが、記事を書くことを快く承諾してくださった。

この場を借りて御礼申し上げます。本日は本当にありがとうございました。