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レポ:第105回ゲーム音楽探究ゼミ トライノート企画 トークライブvol.2「演奏会の裏方に訊く!」後編

2019/05/12(日)に平井コミュニティ会館で行われた、ゲーム音楽研究ゼミ「トライノート」主催の「トークライブvol.2『演奏会の裏方に訊く!』」をゲスト参加として聴講してきました。これまでいろいろなゲーム音楽関係のコンサート/ライブに聴衆としてお邪魔している身として、それらの素敵な公演を支えているスタッフさんの仕事について知ることが出来るいい機会と思ったからです。

今回の主賓はショウヘイさんときーまさんのお二人。聞き手はトライノートメンバーのSinonさんで進行してゆきました。本記事はきーまさんのトーク内容についてレポートします。

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 きーまさん:演奏会でのカメラスタッフの仕事について

きーまさんご自身ときーまさんの活動について

きーまさんのインタビューは、きーまさんがご用意されたスライドを紹介しながら都度インタビューをしてゆく形式でした。まず冒頭はきーまさんご自身についての紹介から。 カメラ会社に勤める会社員の傍ら、Studio Symgraph(スタジオシンラ)の代表を務め、様々な演奏会でのカメラスタッフなどをされているとのこと。またご自身もChor Crystal Mana(コールクリスタルマナ)というゲーム音楽合唱団に所属され、自ら音楽で表現活動もされているとのことです。

symgraph.jp

chorcrystalmana.net

 

 演奏会カメラスタッフの業務について

きーまさんがどのように演奏会撮影スタッフの仕事をしているか、依頼の受注から写真納品までの一連の流れをお話くださいました。ここでは当日行われた質疑応答の内容を織り交ぜながら、きーまさんの仕事をみてゆきます。

(依頼の受注~前日まで)

きーまさんが代表を務められているスタジオシンラのサイトより申し込みができるとのことです。あらかじめサイト内及び問い合わせフォームの中に、依頼時に知りたい内容を盛り込んである為、申し込みの際に必要最低限のことは確認できるとのことです。

・依頼をするにあたり、問い合わせフォーム外で必要なものはあるか?

 演奏会の進行表(タイムスケジュール)や当日の座席や出し物の配置表があれば嬉しい。どのタイミングで/どのような場所から/どのような写真が撮影できるのかを、あらかじめ想像することができる。後の細かいやりとりは直接伺えればいいかと。

 

(撮影当日)

 演奏会に関わる人たちとミーティング後に、まず会場を一通り歩いてまわるとのことでした。ホール内、舞台裏などを実際に歩いて、それぞれの位置関係及び導線の確認、撮影ポイントの確認をされるとのことです。

 ・カメラスタッフの依頼者にお願いしたいことはあるか

スタッフ紹介をしてほしい。初めて会う人ばかりで、どんな楽器を演奏するのか、どんな業務に関わっているのかを知ることで撮影の助けになる。また自分自身がコンサートが誰が関わって、だれが運営しているのかを形にん越して知ってもらいたいという気持ちが強い。互いにリスペクトしあえる関係でありたい。

集合写真はリハーサルを始める前に撮影したい。当日のリハーサルは必ず時間が押すので、十分な撮影時間を確保できなくなってしまう。

 

 合わせて撮影機材の準備も行うと。きーまさんが演奏会の撮影時に使うカメラはミラーレスタイプとのことです。きーまさん曰く「一眼レフはたしかに表現力が強いが、演奏会で使うには適さないことも多い」とのこと。大きな利点として「ミラーレスだと撮影音が鳴らない」ことを挙げていました。「演奏を聴きに来ている人たちの邪魔にならないように」とのこと。また舞台側で奏者を撮影する際にも、演奏の邪魔にならない為にも有効とのことでした。

また、きーまさんは演奏会中に複数のカメラを用いて撮影するとのこと。全体写真や個人など被写体に応じてカメラを変えると。一台のカメラでフォーカスを常に合わせて対応しようとすると、自分が撮影したい瞬間を撮り逃してしまうからとのことでした。撮影当日にカメラ設定はなるべくいじらずに、仕上げの時に整えるそうです。

その他準備で大切なことは「カメラ内の時計を正しい時間に合わせること」ともお話されていました。これによって、撮影した写真の整頓に欠かせないそうです。(リハーサルと本番の区別がつかないようなこともない)

 

 (撮影開始~撮影終了まで)

依頼内容によって撮影する対象などは変わるそうですが、一番長い時だと、リハーサルから終演後の見送りまで撮影されるとのことです。その間ホール内、舞台裏などを常に歩き回りながら撮影してゆくと。ほぼ休憩時間なく撮影しているのでかなり体力面でハードな仕事だと感じました。「今度歩数計で一日の歩数調べてみますね」とはきーまさんの言。ベストショットを撮る為に、ホール内を駆け巡るきーまさんのスタッフを見かけた方もいるとのこと。

 ・撮影する時に気を付けていること

 どのタイミングでも気を付けていることは、「なるべく音をたてないこと」だそうです。カメラの撮影音、足音など様々なところに配慮しているそうです。

リハーサル中に気を付けていることは「撮影に夢中になって楽器に触れない」こと。リハーサル中は実際に舞台に上がって奏者の近くで撮影ができるチャンスでもあると。特に「寄り」のアングルだけでなく、舞台上でないと撮影できない様々なアングルでの撮影もできる貴重な場だそうです。そういった事情も相まって、きーまさんとしては「リハーサル中でも本番の衣装を着てほしい」ということでした。またリハーサル中に本番の流れを確認しながら、どのタイミングでどんな写真を狙うか、どの位置から撮影するのかなどを最終チェックするそうです。

本番中に気を付けていることは、先述した「音をたてないこと」、そして「聴衆の邪魔にならないように撮影すること」を挙げられてました。消音対策として、ガラス張りの親子室から撮影することもあったとのこと。また曲間を狙って撮影したり、ホール内への移動をしたりするなどの配慮もされるそうです。「2階席が封鎖されている演奏会の場合は、そこから自由に動き回って撮影できるのがとてもやりやすい」とも話されていました。 

 

(写真の選別、仕上げ、納品)

リハーサル、開場後、開演後、休憩時間、終演後の見送りまで、きーまさんはずっとカメラを持ち続け、シャッターを切り続けるそうです。2時間ほどの演奏会で1500~2000枚近い写真を撮るそうです。きーまさんは撮影した全部の写真に目を通し、その写りを見て仕上げてゆくそうです。

・演奏会の種類によって撮影に違いや影響などはあるか

演奏会と一口にいっても、オーケストラ、吹奏楽、ロックバンドなど様々な形式があり、ホールやライブハウスなど会場も様々なので写真を撮る環境も大きく異なる。例えばオーケストラでの演奏会の場合は、会場内の演出や照明の色などを変えることはあまり多くないと。一方で吹奏楽の演奏会ではホリゾンタルライトやスポットライトを用いた演出で明るさ・色が異なることがあるなど。

 

撮影した写真をチェックし、1000枚ほどピックアップして、専用ソフトで撮影した写真の仕上げをしてゆくそうです。また、写真の納品前に50枚ほど選んで依頼先に「早出し写真」としてお渡しすることもしているそうです。選別・仕上げを行って、納品まで長くとも3週間ほどで行うということ。プロの仕事の速さを感じました。

 

質疑応答などから見えてきたきーまさんの姿

ここからは、その他の質疑応答でのやり取り及びそこから見えてきたきーまさんの写真に対する思いなどに迫ります。

・ゲーム演奏会カメラスタッフとしてきーまさんの強みは?

コールクリスタルマナの団員として実際にゲーム演奏会のステージに立っている経験があること。奏者の側が求めている楽器や音への配慮は他の人より出来ていると思う。また、演奏される曲やそのゲームについて知っていることも多いので、演奏会の盛り上がりはどこか、曲のどこが聴きどころか、どのタイミングで誰に対してフォーカスを当てればいいか、などのシャッターチャンスを逃さないようにしているということでした。

 ・カメラスタッフの時は、撮影する範囲や対象などは定めているのか

依頼の種類によって異なるが、一番長い時は開演前のリハーサルから終演後の後片付けが終わるまで撮影することもある。撮影対象は基本的には依頼を受けた楽団メンバーになるが、きーまさん個人としては、奏者だけでなく、フロアスタッフ、ステージスタッフなどの「裏方」や演奏会に来た聴衆の人たち含めすべての人の写真を撮りたいそうです。

演奏会本番だけでなく、リハーサル、開場後の開場の様子、演奏中の裏方さんの仕事ぶり、練習風景、オフショット、終演後の盛り上がりなど、まさに演奏会に関わることすべてを撮影したいというきーまさん。話をさらに伺うときーまさんが写真を撮ることへの思いが見えてきた気がしました。

「演奏会が開催されるにあたりどんな人が関わり、どんな人が運営しているのかを写真に残すことで、多くの人に知ってもらいたい」という言葉からは素敵な演奏会に携わる方へのリスペクトを大切にしたいと感じました。

 

また、きーまさんが「どのような時に演奏会の写真を見返しますか?」と聴講者に質問した時がありました。その時は「当日の様子などを改めて見返して、後学の為の資料として活用する」などの意見も出ましたが、その際にきーまさんは「写真は、後から見返してその瞬間のことを思い出すことができる」ことの素晴らしさを語っていました。演奏会の主役である「音」は写真に収めることはできないけれど、その写真をまた時間が過ぎたのちに見返すことで、何度もその時のことを思い出すことができる。記憶の中にある素敵なものを呼び起こすきっかけとなり、それを共有することができる。

きーまさんが演奏会の写真を撮り続ける理由、そしてそのきーまさんが撮影した写真を見た時にとても素敵な気持ちになる理由が、とてもよく分かった気がしました。きーまさんは「撮影する写真の構図にはこだわる」ということもお話されています。楽団メンバー全員が写っている写真は必ず撮影する、ソリストや指揮者などのいい場面はあらゆる角度からおさえる、奏者が指揮者のことをじっと見つめている姿がかっこいい……など、演奏会に関わる人すべてに対する熱意とリスペクトが詰まったきーまさんのお話をたくさん伺えた素敵なトークライブでした。