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レポ:第105回ゲーム音楽探究ゼミ トライノート企画 トークライブvol.2「演奏会の裏方に訊く!」前編

2019/05/12(日)に平井コミュニティ会館で行われた、ゲーム音楽研究ゼミ「トライノート」主催の「トークライブvol.2『演奏会の裏方に訊く!』」をゲスト参加として聴講してきました。これまでいろいろなゲーム音楽関係のコンサート/ライブに聴衆としてお邪魔している身として、それらの素敵な公演を支えているスタッフさんの仕事について知ることが出来るいい機会と思ったからです。

今回の主賓はショウヘイさんときーまさんのお二人。聞き手はトライノートメンバーのSinonさんで進行してゆきました。本記事はショウヘイさんのトーク内容についてレポートします。

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ショウヘイさん:フロアマネージャーの仕事について

ゲーム音楽演奏会のスタッフからはじまった

ショウヘイさんが初めて演奏会のスタッフに参加したのは、2011年に開催された「4starオーケストラ」からとのこと。元々ゲーム及びゲーム音楽は好きだったが、演奏経験もなければ、学生時代の行事運営なども全くしてこなかったとのこと。「単純におもしろそうだったから」という好奇心で参加されたとのことでした。その後数度の演奏会当日スタッフやフロアスタッフを経て、フロアマネージャーも経験。その活動で知り合った方々に乞われる形で多くのフロアスタッフ・フロアマネージャーを経験され、その数70公演以上とのことでした。演奏会を運営する楽団関係者の間では、経験豊かなショウヘイさんへの信頼は厚くとても安心して当日の演奏に集中できる、といった参加者の声が多数聞かれたことが印象的でした。

フロアマネージャーの仕事内容について

 トーク内容はショウヘイさんが普段されているフロアマネージャーの仕事内容についてが多くを占めていました。

音楽演奏会では、実際に演奏をする奏者の他に様々な「裏方」という立場の方が関わっています。奏者が演奏できるようにステージ上(及びステージ裏)で様々な準備をしたり進行を行うスタッフ、ステージ上の演出や音響などの調整に関わるスタッフ、演奏会の設営や会場運営、来客対応などをフロアで行うスタッフなどがいます。このうちフロアマネージャーはフロアに関わることの業務を統括する立場とのことでした。

依頼を受けた楽団の話を伺い、日程や開催場所、演奏曲目などを伺い、必要なスタッフ数や開場開演時間などから当日のフロアスタッフ進行を調整し、当日はスケジュール進行に合わせながら当日のスタッフに指示をしつつ臨機応変に対応をしてゆき、演奏会を進行させてゆく。事前準備もさることながら、どのように演奏会が行われるのかを想像してそれをデザインしてゆく想像力、楽団や当日スタッフなどとの連絡調整を繰り返す調整力、演奏会当日に時々刻々と変化する会場の様子に対して適切に対応してゆく柔軟な対応力など、様々なことが求められるとても大変な立場だと感じました。

フロアマネージャー業務の流れ

(依頼を受ける)

楽団によって様々ですが、フロアマネージャーの依頼が来るのは演奏会開催の半年前であることが多いとのこと。

(開催までの事前準備)

「フロアマネージャーの業務は前日までの準備で9割ほど終わっている」とショウヘイさんが語っていたように、前日までに確認・調整することがとても多いと感じました。

楽団さんとのやり取りの中で、開催日時、会場、開演時間等を確認する、その中で「どのような業務が生じるか」「その業務に対して何人スタッフが必要か」ということを想像してゆき、当日のタイムスケジュールを組んでゆくそうです。

ここで演奏会でのフロアスタッフの業務を紹介します。

 

・列形成・誘導スタッフ

演奏会の開場時間前から会場に足を運んで待機するお客さんもいます。そういったお客さんに整列頂くよう案内するスタッフ。

「演奏されるゲームへの愛が強いファンが多いゲームタイトルほど、開場前に集まるお客さんが多いと思う」とのことでした。また、会場の構造によって列形成できる場所や人数も異なる為、事前の予測と当日の対応が求められるとのことです。

・チケットもぎり・パンフレット配布スタッフ

開場した後に演奏会を観覧する人たちのチケットを確認するスタッフ、多くの場合当日の演目が載っているパンフレットや他楽団の宣伝チラシなどを手渡しするスタッフも一緒にいる。

ショウヘイさん曰く「開場から開演までがフロアスタッフが一番多忙な時間」とのことでした。特にチケットもぎりのところはその時間を左右する重要なところだと。予測した来場者数に対して与えられた開場~開演までの時間を考えて、スタッフをどれだけ配置すればいいか、ということが肝要とのことです。例えば、チケットもぎりに一人あたり5秒かかるとして、単純計算で1分あたりに12人捌ける、30分だと360人捌けることになります。これがもぎり列が2倍になれば2倍の客数を捌ける……という感じですが、勿論コンサート会場に来るお客さんの数は時間でもバラつきがあるし、演目によっても集客は異なるし、開演前にプレコンサートなどがある場合は、もっと早めに会場にくる人たちもいるかもしれない……等色んな要素が関わるだけにとても見極めの難しいところだと感じました。

・フロア、ホール案内スタッフ

 会場入りしたお客さん対応のスタッフ。席誘導、施設内案内、問い合わせ対応など様々なことに臨機応変に対応することが求められる。

開演後も途中で退出するお客さんや開演後に会場に入るお客さんの案内(ホールでの演奏会等では曲間に入場を促すことが多い)などの対応が続くことも。

・受付、プレゼント受取等

楽団のメンバーへのプレゼントや手紙などを贈れるスペースを慣習的に設けている楽団も多い。そこでのプレゼント受取、保管場所への移動などをする。

ここからは開演前に行う業務等

・チラシ挟み込み

チケットと一緒に配布する 他楽団等の宣伝チラシをパンフレットに挟み込む業務。人気の楽団やゲーム会社公式で開催される規模の大きい演奏会になるとチラシ挟み込みだけで2時間かかる時も。

・会場設営

 立ち入り禁止や会場案内の立て看板、ステージやフロアに必要なものの設営、楽団によってはイベントスペース等も設けているのでそこを彩るものも設営する。

 

細かいものを挙げるときりがないが、一口にフロアスタッフといってもその業務は多岐に渡る。フロアマネージャーは、それらの業務を把握し、どんな業務が必要か、その業務を行うためにどれだけの人手が必要か、などを想像し楽団に提案するそうです。必要ならばスタッフ募集を呼びかけることもあると。

ショウヘイさんが当日までに作成するものは「当日スタッフのタイムスケジュール表(各個人毎に)」「業務マニュアル(当日行う業務の概要、諸注意事項を含む)」とのことです。

 (当日朝)

会場に到着後、当日の流れを楽団側の運営と最終打ち合わせ。当日スタッフと合流後に会場設営とチラシ挟み込みなどをする。

(開場前)

 開場前に来るお客さんの様子を見ながら必要に応じて列形成などを指示。またリハーサルの進行状況によって開場時間や開演時間が変わるのでそこの様子も気にしているとのこと。受付、プレゼント、関係者席などの対応確認。

(開場後)

チケット確認と共にお客さんがホール内へ入りだすので、最もフロアでの対応が必要な時間帯。ショウヘイさんは大抵会場の入り口付近に待機していることが多いそうです。その時は自分の業務は一切持たない、とのこと。各スタッフが対応している案件がショウヘイさんに持ち込まれたり、刻一刻と状況が変わる中でスタッフに指示をする必要がある為、一番会場内の様子がわかりやすくかつ各スタッフが見つけやすい場所にいるとのことでした。

(開演後)

開演までの山場は過ぎたものの、開演後に会場に来たお客さんの案内やプレゼントの仕分け、ホール外での案内などの業務はある。必要最低限のスタッフを配置して指示しながら、各スタッフに交代で休憩をとってもらう。また開演後に会場に入る際には、既に会場に入っているお客さんの迷惑にならないよう、周りにストレスがないように案内をすることが肝要と。

 (休憩時間)

演奏が終わってトイレを利用する方も多いのでその案内など。また場合によっては会場外に出る人もいるので再入場に関する案内なども必要になる。人数が多いので会場の空調を管理指示することも。

(終演後)

終演後はロビーや会場付近に多くの人が集まるので、ロビー内での導線確保など誘導が主な仕事に。またアマチュアコンサートだと演奏後のアンケート用紙を用意しているところも多いので、アンケート回収も併せてアナウンスする。お客さんが退場後にはホール席での忘れ物のチェックなど。

・質疑応答

フロアマネージャーの業務を一通りに話した後は、ショウヘイさんが経験してきたことについての色んな質問が出てきました。

・フロアマネージャーとして特に気を付けていること/よかった経験など

お客さん同士でトラブルが起きないようにすることが大事。隣に座った人の臭いが気になる、パンフレットをガサガサする音が気になって演奏に集中できない、などお客さん同士でのトラブルが起こりうるので、席移動を求める人用の席を用意しておく、子連れの方用に防音室の有無を確認する、などあらかじめ起こるトラブルを想定して対応策を用意しているとのこと。

フロアスタッフをしている時に、お客さんの生の盛り上がりや感想を聞くことができるのが面白いとのことでした。

・フロアスタッフとして楽団やお客さんにお願いしたいことはあるか

 (楽団に対して)

レスポンスがほしい、(打ち合わせの日程や終演後の挨拶などの連絡はまめにした方が円滑にできる)当日のタイムスケジュールや招待者の有無などがわかると当日の進行などが把握しやすいので教えてほしい。

(お客さんに対して)

チケットは忘れずに持ってきてほしい。(チケットの有無などは最もトラブルになりやすい)チケット忘れの対応も事前に相談しておけばトラブル防止に繋がる。最終的には講演する楽団の判断に従うことになるため。

・これからフロアスタッフをやってみたい人に伝えることは

向き不向きはあるかもしれないが、熱意があればだれでもできる業務だと思う。基本的には接客業として求められるスキルがあればいいかと。

またフロアスタッフは各楽団が募集をする場合や楽団メンバーの知り合いから相談される場合がほとんど。ゲーム音楽演奏会に関わる人たちは、決して多くないので「ヨコ」の繋がりなどを大事にしてチャンスを探してゆけばいいと思う。

 ・最後に

ショウヘイさん自身が経験した多くの演奏会の経験をもとに積み上げてきたスキルや経験が今のショウヘイさんへの信頼や安定した演奏会運営を実現させていることに繋がっている、ということがとてもよく分かったトークライブでした。プロアマチュア問わずゲーム音楽演奏会が開かれることがどんどん増えてきた昨今、ショウヘイさんのように経験のあるフロアマネージャーが必要となる機会は増えてゆく一方だと思います。演奏者だけでなく、いわゆる「裏方」と呼ばれる方の仕事あってこその演奏会だと改めてわかった次第でした。