知らないことだらけ

ゲームとゲーム音楽と雑記

ゲーム音楽演奏会の楽しみ方について考える

(記事目次)

 

ニンテンドースイッチ体験会の思い出

去る 2017/1/14と2017/1/15に「Nintendo Switch体験会2017」が開催されました。私は運よく2日目の体験会に足を運ぶことができました。たくさんのゲームファンと同じく、ニンテンドースイッチをいち早く体験したい……という気持ちもあったのですが、実はお目当てはもうひとつ別にありました。

ライブステージで10:30(と16:00)から行われた「ニンテンドーゲームミュージックライブ」です。

topics.nintendo.co.jp

2日目は午前中が「任天堂スペシャルロックバンド」が、午後が「任天堂スペシャルビッグバンド」がそれぞれ任天堂から発売された様々なゲームミュージックをロックバンド形式、ビッグバンド形式で演奏してくれる!というとても素敵なイベントだったので、寒空の下東京ビッグサイトに赴き、多くのゲームファンと共に列に並び、無事にイベントスペースでの前列にたどり着いてライブを聴くことができました。

演奏は最高でした。Splatoonから「Splattack!」のE3初お披露目バージョンから「Now or never!」「Hooked」さらには新作Splatoon2から「Inkaming!」も演奏してくれるし、ゼノブレイドからは人気楽曲である名を冠する者たち」「機の律動」、マリオカート8メドレーなどなど実に疾走感のある激しくて魅力的な楽曲を最高のメンバーが最高の演奏で披露してくれました。私も最高に楽しんでました。

けれども気になったことがありました。

 

 こんなにサイコーの演奏が聴けるライブなのに、観客の盛り上がりがそれに伴ったものだとは感じられなかったことです。イベント前の座席は満席でした、そしてその周りもステージを見ようと多くの人たちが集まっていました。けれども、観客から曲に合わせて手拍子が自発的に出ることはけして多いとはいえなかったし、曲終わりの歓声も出たり出なかったりという印象でした。ステージ上で演奏されている方が度々手拍子を促すものの、手拍子がしばらく鳴ってはやがて手を下ろしてじっと演奏を聴くという方が多い印象でした。

もちろん、音楽の楽しみ方は個人の自由です。どのように感情が揺さぶられ、それをどのように表現するのかも自由だと思います。私が気になったのは個人の感情とか感じ方ではなく「これだけ盛り上がった演奏が行われているライブなのに、なぜ聴衆がそれに乗っかって盛り上がらないのか?」という点です。数は多くないけれども、何度かロックバンドのライブに参加している私の感覚では「盛り上がった演奏があれば、自然と観客も盛り上がって、声を張り上げ、手を振りかざすのが当たり前」だったからです。

同じゲーム音楽のライブ演奏でいえば、シオカライブの盛り上がりが記憶に新しいところかもしれません。

 シオカラーズ1stライブに立ち会ったことのある身としては、今回のライブパフォーマンスがその時のものと遜色ない(それどころかより魅力的だったかもしれない)ものだったのに、なぜこうも盛り上がりが違うのか……と不思議に感じていました。

盛り上がらない観客に不満があると言いたいわけではありません。私が考えたいのは「ライブで盛り上がることと盛り上がらないことの違いは何か」というところでした。理由はいろいろあるのかもしれませんが、本稿はその理由のひとつとして見えてきたものだと思ってください。

 

演奏会とライブという形式の違い

 プロアマを問わず、現在は多くのゲーム音楽演奏会が行われています。オーケストラ、吹奏楽弦楽四重奏、ピアノソロ、ロックバンド、ジャズバンド、DJイベントなどなど形式は多岐にわたります。ここでは、聴衆がどのように演奏を聴くのか、というところに注目して「演奏会」と「ライブ」という形式で大別して考えてみたいと思います。

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上の表をご覧ください。大まかですが演奏会とライブの特徴をそれぞれの項目で比較してみたものです。(個人の主観によるものなので、間違った点などあった場合はご容赦ください)

演奏会はいわゆるクラシックコンサートなどをイメージしました、対してライブはロックミュージックライブをイメージしました。それぞれの会場によってまた細かく内容は異なってくるとは思いますが、同じ音楽を聴く場であっても演奏会とライブではその雰囲気やマナーなどが大きく異なっていることが窺えます。

なぜマナーが異なるのか?音楽演奏会におけるマナーとは、音楽演奏会に関わる人たちが楽しめるように皆が心がけること、だと私は考えます。つまり、演奏会とライブでは「音楽の楽しみ方」が異なる性質だと言えます。ここをもう少し考えてみましょう。

  

聴衆は何を楽しんでいるのか?

 演奏会とライブでは、それぞれどのように音楽を楽しんでいるのでしょうか。それぞれの開催形式で求められるマナーを通して考えていこうと思います。

まずは演奏会から。演奏される音がスピーカー等を通さない生音であることが多いこと、弦楽や管楽などが演奏されることが多いことなどから「いかに演奏される音の邪魔をしないか」ということがマナーになっていると思われます。このマナーについては以前別のコンサートレポを通して考えたことがありました。

mtdrk.hatenablog.jp

 演奏されている音がしっかり聞こえるように、咳払いやくしゃみも抑える、話し声だけでなくパンフレットの紙が擦れる音もたてないようにする。また予測のつかない行動をとる未就学児の観覧をお断りすることもある。奏者の方々がテンポをずらすことなく演奏できるように、手拍子などもしない。演奏会においては「演奏される音楽」が主役であり、その演奏を奏者も聴衆も100%味わい尽くせるようにマナーが作られていると思います。だからこそ、演奏が終わったあとの感動がひとしおなのでしょう。

続いてライブ。演奏会の様子とは対照的に、聴衆に声や身体の動きを許容する雰囲気どころかむしろ推奨しているように感じます。演奏される音楽に対して、感情が赴くままにリズムをとり、声をあげ、手拍子をして、身体をゆらしてゆく。奏者側も演奏以外にもパフォーマンスをし、聴衆を煽り、盛り上げようとする。そのような空間では、演奏される音もテンポがずれたり、歪んだ音が多くなってしまいます。けれどもライブの盛り上がりをみていると、そのようなことは些末な事柄のように感じます。ライブにおいては「ライブ会場にいる人たちの一体感」を大切にしており、そこにいる人たちがみな盛り上がり、感情を思いのままに発露し、ライブ会場にいる人たちが皆素敵な思い出になるようにしあっているのではないでしょうか。

このように、同じ音楽を聴く場であっても、演奏会は「演奏される音以外の雑音を排除するように努める」ことが求められ、ライブは「会場にいる人たちの一体感を生むために手拍子やコール&レスポンスなどで盛り上げる」ことが求められるという。全く違った性質のものであると言えます。

ここで冒頭のニンテンドースイッチ体験会で私が感じた違和感の理由がわかりました。私は演奏形式や楽曲の性質から「ライブ」の楽しみ方を期待していたのに、聴きに来た人たちの楽しみ方が「演奏会」の楽しみ方だったからではないでしょうか。もう少し推察するらならば、体験会のライブに来た人たちがライブの楽しみ方にあまり慣れていない人たちだったのかもしれません。今述べた通り、ライブでは「ライブ会場の一体感」が求められるため、盛り上げるような手拍子や歓声などがないとむしろライブの楽しみを感じることが難しいと思います。演奏会において会場の多くの人たちが雑音を出さないように気を付けないと演奏会を楽しめないように、ライブもまた多くの人たちが盛り上がれるようにしないとライブを楽しめないのかもしれません。

 

ゲーム音楽」のもどかしさ

 また本題からは少し逸れるかもしれませんが、ゲーム音楽を演奏する際に、元の楽曲とゲーム音楽演奏会で演奏される時の音楽ジャンルのズレというのも、別の課題かもしれません。

一口に「ゲーム音楽」といっても、そこにはクラシック、ロック、プログレ、ジャズ、歌謡曲フォルクローレフォークソング、テクノミュージックなどなど様々な音楽ジャンルに属する音楽がごった煮で詰め込まれています。それぞれの音楽ジャンルには、それぞれ得手不得手の演奏方法や演奏形態があると思います。元の楽曲としてはロックバンド編成で演奏されるのを想定された曲だけど、それをオーケストラ編成として演奏するために、本来ならライブのノリで楽しめるような曲だけれども、演奏会の会場で演奏された為、ライブのノリができない……ということも考えられるのではないでしょうか。

 

もっと軽率にブラボーを!

 閑話休題。演奏会とライブ、それぞれの形式で多くみられる「音楽の楽しみ方」の違いとそれを楽しむためのマナーの違いが見えてきたと思います。とはいえ、演奏会で素晴らしい音楽を聴いた時に生まれた感動を、そのままそっと胸の奥にしまうという選択肢だけしか演奏会では許されないのか、というわけではありません。演奏後に拍手をすることでその感動や奏者への感謝を表すことができると思います。

でも、拍手だけで満足できますか?

 胸の奥底から湧き上がるその感動を、もっと伝える方法はないのでしょうか?

演奏会で許される(と思われる)行動では、演奏終了後の拍手のほかに、祝辞をいうこともあるのではないのでしょうか。ブラボー!という賞賛の声をあげてもいいのではないでしょうか。素敵なものを、素敵だと褒め称えるその行為は、とても素晴らしいものではないでしょうか。

素晴らしい演奏には、ブラボー!と声をあげ、プログラムを終了した後は、最大の賛辞としてスタンディングオベーションをする。それがもっと気軽に行われるような演奏会もできるのではないでしょうか。

ブラボー!と声をあげることが、周囲の人の感動に浸る時間を奪ってしまうのではないか、もしくはスタンディングオベーションによって後ろの人が奏者たちのことを見られなくなってしまうのではないか、という不安がつきまとうかもしれません。

けれども、他の人に迷惑をかけることを恐れて、形式だけのマナーを守ろうとすることって、本来「演奏会に来た人たちみんなが幸せになるために守るもの」というマナーの定義から見たら本末転倒だと思うんです。

演奏会に来た人たちが幸せになるための、賞賛の声はもっともっと軽率にあげてもいいのではないかと強く思います。もっと軽率にブラボーを!感動を素直に表しあって、素敵な演奏会が盛り上がればいいなって、そう思ってます。それでは、このへんで。またどこかのゲーム音楽演奏会でお会いしましょう。